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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

どういう意味で、北條一雄の本のことや篠原蔵人の書いたものについてばかり話して行ったのだろう。それらの本や論文について、伸子が、わざとわかろうとしないんだ、というようなことを、どうしてその白い浴衣のひとは云うことができたのだろう。

素子が夕方帰って来たとき、伸子は、その不意な来客について話した。

「まるで知らない男かい?」

「知らないわ……」

「近所に住んでいるらしかった?」

「そうとも思えなかったけれど」

素子は、煙草の煙が夕風に流れる方角を追うように庭に目をやっていたが、

「ここが流通なのも考えもんだな?」

と云った。門から玄関までの通路と庭との境に、垣根のないことをいうのであった。

「どうもこの節は、えたいのしれないものが頻々とやって来るね」

きょうの不思議な客ばかりでなく、いつか来た三人の、よごれで光った青年たちのような若者が、皺くちゃになった紙に鉛筆で姓だけを書いたものを示して、あれから三組ほど来た。いつも三四人ずつが一組となって。その人たちは、しかし、必ず玄関から来た。堂々と玄関から来る、というところに、その人々が自身に認めている権威が示されているらしかった。