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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

のなかに消耗されてゆくしかない階級として、示されているのであった。

「そうなのねえ。だから、動坂でいくら自動車を買って、どうかなった気でいたって、結局のところやっぱり、けちくさいんだわ。大戦で郵船会社が大儲けしたから、建築家だってあのビルディングを建てたんだもの――」

そう云っているうちに、伸子は建築家である父が、しばしば娘の伸子に向って、依頼者の註文づけが不愉快だと話していたことを思い出した。方眼紙でできている父の手帖には、実際に建てる家やビルディングの設計図のほかに、それを考えているうちに浮んで来たいくつもの架空の設計図が描かれてあった。椅子にかけた泰造が、その膝のところにくっついて低い腰かけにいる伸子の手をとってなでながら、よく、想像(イマジネーション)を発揮しなさい。と、それを日本語でいうより英語でいうと一層そこにゆたかさが思われるようにいうのを思い出した。そういうとき伸子は、

「お父様のイマジネーションずき!」

と笑った。社会のしくみがいくらかわかって、建築家としておかれている父の立場が察しられてみれば、父のイマジネーションずきには、決して実現しない建築家としてのあこがれがひそめられているのを知った。