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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
階級的に発展することだけが、小市民の歴史における正しい生きかただとして、それはどういう風にしておこるだろう。
「あなたにわかる?」
伸子は、校正をしている素子のわきにくっついて云った。
「相川良之介の聰明に限界があったわけがわかるようでもあるんだけれど――階級的移行って、一人一人にとって、たとえば、あなたやわたしにどういう風におこるんだと思う?」
「ぶこちゃんは、それが生れつきなんだろうけれど、いやんなっちゃうな」
赤インクのついたペンをもったまま素子はほんとにいやになるようにわきに立っている伸子を椅子の上から見上げた。
「いつだって、こうだ、知ってるかい自分で――こんどだって、あの本見つけて来たのは、わたしだよ。ぶこちゃんは、うちにただ坐ってたんじゃないか。わたしは用で外へ出なくちゃならない。すると君は坐ってそれをよんでいる。そしてどんどん吸収して生長してゆくんだ。いつだってそうだ。わたしがきっかけをつくる、それをわきからとってものにしてしまうのは、ぶこさ」
素子は、暗い眼でじっと伸子を見すえた。
「そこがおおかた力のちがいというもんなんでしょうがね……」