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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子のために、便宜があればそれにこしたことはないが、吉見素子がそれにあやかることは不本意だが、大目にみておくという表情を、ありありと顔にうかべている多計代に玄関まで送られて、翌日伸子は父と藤堂駿平の邸へ出かけた。
麻布の天文台のそばで門の石塀のそこまで葉を落した桜の枝がさし出ている。三人の取りつぎがどれも男ばかりの案内で、応接間にとおされた。近代風の洋式客間で、明快な色調の広い部屋だのに、一方の壁に床の間めいた高いところがこしらえてあって、そこに日本画のかけものと、紫檀の板の上に香炉がおかれている。伸子は、政治家というものの客間を珍しく見まわした。じき、
「やあ」
といって、和服姿にスリッパをはいた藤堂駿平が現れた。
「ようこそ」
はじめて会う伸子に会釈した。有名な鼻眼鏡の黒リボンと、くさび形のあご髯の間から見えている藤堂駿平の皮膚は白くて、濶達な身ごなしだった。
泰造が、全く友人同士のようでありながら、どこか微妙なニュアンスで自分との間に差別をおいている話しかたで用件を説明した。
「ほう。なるほど。――それぐらいは、むずかしいことでもなさそうだ。ようござんす」