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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

藤堂駿平はわきにあるベルをおした。伸子たちをとりついだ少年が来た。

「今井君にちょっと」

秘書の一人らしい黒い背広の男が入って来て、丁寧に礼をしながら、そこにかけている泰造と伸子との方をひとわたり見、いそがず藤堂駿平のそばへよって行った。

「このお嬢さんが、お友達と二人でソヴェトへ行かれるんだそうだ。それについて一寸……」

あとは、はなれた椅子にかけている伸子にきこえない打ちあわせになった。深いひじかけ椅子に背をもたせかけて、鼻眼鏡の顔をあおむかせ気味に何かいう藤堂駿平の方にこごみかかって、

「はァ」

とか、

「それは出来ますでしょう」

とか簡単に答えながら、秘書はそれとなく眼を動かして、ちょいちょい伸子の方を見た。

「じゃ」

「…………」

秘書が一礼して出て行くと、藤堂駿平は、

「お嬢さん、明後日あたりでも、大使館へいらっしゃい、わかるようにしておくから」

といった。そして、膝の前におかれている小卓の箱から葉巻を出して、その先をきり、火をつけ、くゆらしながら、一層深く椅子の背にもたれこんで、

「日本の婦人たちも、どしどし外国へでもどこへでも行くようになってくれなくちゃ仕様がありませんな」