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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そのひとを、素子はおさわさんという名で呼んだ。ときによると、おさわと呼びもした。そのひとと父との間に生れた弟や妹たちに対して、素子はちっとも偏見を抱かなかったし、父のことを話すとき、眼に涙をさしぐますこともあった。しかし、素子は、父の家に対する生きた抗議としての自分の存在を、決してかえようとしていないのであった。

「お父さん、花をおよろこびになったろう?」

「それが、がっかりよ、出張なの」

「へーえ」

素子は、すぐ、ひらめく何かがあるという眼つきをした。けれども、伸子が真面目に沈んでいるのを見て、そのまま黙った。素子のいいたいことは、伸子に同じはやさでわかった。「出張」は市内でも出来る、というわけである。もう三年ほど一緒に暮したこの頃、伸子はそういう頭の働きかたをむしろ素子のマンネリズムと思っているのであった。

「おとよさん、おとよさん」

庭に面した座敷へ行った素子が呼んだ。

「きのう貰った五家宝切っておいで、お茶も願いますよ」

やっとわが家でくつろげるという風に、伸子は子供らしい顔つきになって好物の五家宝をたべた。

「妙なものが好物なんだなあ」

素子は、新しくたばこに火をつけ煙に目を細めるようにしていたが、