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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

それらのことがまざまざと思いおこされた。それは、伸子のニューヨーク行きさわぎの一年ばかり前のことであったが。――

こんどは計らず藤堂駿平の一つの力をかりることになった。藤堂駿平が面白い小説をかくようにという、それにたいして返答に困った伸子のこころはソヴェトの未知の生活のなかで、どんなに震盪され、動いてゆくのだろう。伸子自身にもそれはわかっていないことだった。

藤堂駿平にいわれたとおり、なか一日をおいて、伸子と素子とはつれだってソヴェト大使館へ行った。門を入るとすぐ植ごみがあって、その左手の高みに小公園のような内庭があった。そこのベンチに、秋の午前の日光に白く見えるほどブロンドの髪をした若い女がかけて、よちよち歩きの幼児を遊ばせていた。ソヴェト大使館には警視庁の私服の刑事がはりこんで、出入りする日本人を見はっているという話があり、伸子と素子とは、漠然と緊張した気もちで、人影のない植ごみの横の事務所のベルを押した。戸が内側へあいて、若い、つやつやと光ったまるで真新しい麦わらのように新鮮な感じの館員が出て来た。用むきをきくと、一旦ひっこんで、伸子たちは構内にある文化聯絡協会の事務所へ行ってパルヴィン博士に会うように、ということだった。