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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

課業が終ってから、素子は、

「いそがないんなら、夕飯をたべていらっしゃい」

と蕗子をさそった。

「あなたが使うようにのこしておく本なんか、そろそろ選んでおかなけれゃ。こんなときは、あとへゆくほどごたつきますからね」

夕飯のできるまでと、伸子は、いつも電話をかけている停留場わきの酒屋へ出かけた。そして、本をつめて、動坂のうちの土蔵にあずかって貰うためのビールのあき箱を、十個ぐらい註文して来た。帰ってみると、ロシア語関係の辞典類をすっかりひとまとめにして積み上げた卓の前に、素子と蕗子が一服していた。入ってゆく伸子を見上げて、

「こまっちゃったよ、ぶこちゃん」

素子が、辞典のつみ重ねを目でさした。

「――これだけで一荷物だ」

「ダーリのようなものは、かえってむこうではいらないんじゃないでしょうか」

そういう蕗子の注意で、素子は大判の幾冊もある百科辞典風の大辞書をとりのけた。

「ぶこちゃんの本は、どの位になるかい」

「さあ」

伸子は、まだ揃えてなかった。歴史の年表。日本の辞典。簡単な日本と世界の文学史。そんなものの必要はすぐわかった。けれども、

「小説、なにもって行こうかしら……」