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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

多計代が、どういう男を好む性質かというような効果を捉えて行動したり、伸子への感情の表現を、多計代の気にもかなうように粉飾したりすることを、佃は知らなかった。越智の存在とその多計代への影響のありかたを見くらべると、今伸子には佃のぎごちない、光のとぼしい正直さが理解された。佃が正直であったということについて、伸子は、女としてもっとも機微にふれた発見をしていた。二十を越したばかりであった伸子は、ほとんど倍ほど年長の佃と結婚しようと決心したとき、母になることを恐怖した。子供をもつということが、本能的に警戒された。佃は伸子のその不安について約束したことを、一緒に暮した最後の場合まで守った。離れようとしてまたひきもどされる夫婦の、暗い激情の瞬間に、佃がそのときを利用しようとすれば利用出来たいくつかの機会があったことが思われた。しかし、佃は苦しい蛾のように伸子のまわりに羽ばたきながら、約束は破らなかった。伸子を自分の子の女親とすることで、自分にしばりつけようとはしなかった。

伸子が佃の家を出て半年ばかりたったとき、伸子にたいして憤慨した佃の友人たちが、佃を最も幸福にしてやれると思われた一人の婦人を紹介して、佃はその人と結婚した。