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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

去年、細君を離別した竹村は、駒沢の、伸子たちの住んでいる分譲地よりずっと奥に、一人暮しで園芸をはじめていた。

「いま、カーネーションが素晴らしいところなんだ、ね、――行こう」

「いまっからじゃあ……」

素子が、決断のつかないおももちになって、竹村の住んでいるところとの往復の距離をはかるように庭を見た。

「かえりは送って来るよ、宵の口はひまがあるんだ。この頃の気候だと夜中にボイラーをたくだけでいいんだから」

「――ぶこちゃん、どうする?」

「私は行ってもいいけれど……」

「じゃ、行こう、おいしい干物があるから、あれをもってって御飯たべよう」

「来て見なさいとも。びっくりするから……きれいで――」

七

家の門を出て、右手にゆるい坂をのぼりきると、桜並木の通りへ出た。玉川電車の停留場を降りたところから、真直にもう一本桜並木があって、伸子たちの家へ来るには、そっちを通った。その道は、とっつきから、小さい魚屋、荒物屋、八百屋、大工の棟梁の格子戸の家などが、いかにも分譲地がひらけるにつれてそこへ出来たという風に並んでいる。その間を通って来ると、段々生垣や、大谷石をすかしておいた垣の奥の洋館などが見えて来る。