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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そういって、保のいる座敷へ戻った。

素子は、決心のつかない表情で伸子が出かける玄関口まで来たが、とうとう来なかった。

伸子は、保に鵞鳥も見せたいと思い、おととい通った道順そっくりに、白い小花の咲いている灌木の茂みのところを行った。

「いる! いる!」

伸子はよろこんで、

「ほら、いるでしょう」

ときょうもなきたてる鵞鳥の群を見せた。

「七面鳥は桜山でも飼っているけれど、鵞鳥って珍しい」

夏休みに行く田舎の家のある村の名をいって、保は伸子と道ばたに並んで鵞鳥を見た。保が、柵の外の道からポンポンと手をうって歩くと、鵞鳥はしばらくそれに平行に歩いて来た。

「お留守でなくて、よかった」

温室の外で働いている竹村の姿が目に入ったとき、伸子はわざわざ来た保のために在宅をよろこんだ。保は、研究的に、土の混ぜあわせ方の比率だの、温度だのについて竹村にききながら、カーネーションの間をゆっくり歩いている。竹村の、年の割に枯れた皮膚の、眉間に大きい縦皺をもつ顔は、温室に花を育てる人として自然に見られた。けれども、上まぶたが重くぽってりと、色つやのさえない、しかもどこか鋭い保の容貌は、カーネーションの美しい体温のない充満の中で人間の肉体や心の分厚い存在を伸子に感じさせた。