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ふたつのまつかわ

二つの松川

細井 吉造

「旅」1936(昭和11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,511 字 · 10 页

青空文庫

御料林の伐材で急造された人夫小屋が軒を連ねて、監視小屋が対岸の最も高いところにストーヴの煙突をのぞかせていた。一番奥まった大きな小屋で、木樵稼業で日本を渡り歩く四十男とその女房が、登山者の来訪にけげんなひとみを向けながら菜っ葉のつけものでお茶をすすめてくれた。

たくさんの人夫小屋、トロリー軌道、ちょっとした畑、物干しの赤い色彩、犬のほえる声などはたくましい伐木の進捗を明示する行進曲で、秘渓の中に生活の侵略を看取することが出来る。僕は百メートルもの下の岩の廊下を走る水や、山腹を電光形に走る作業道路を俯仰した。もてなしのお礼に味噌の残り約三百匁とイワシのかん詰めをお茶代がわりにその女房のしわ目の多い掌に進呈したのである。親父ははち巻きをとって山の鼻一つまがる所まで送ってくれた。トロリー道は山腹をほとんど勾配もなく進んでいる。空は完全に晴れ上がって、太陽の輝きには夏の最後の贅りがあった。谷を吹き上げる南風がトリカブトの群落をなでて、水ぎわをはるかに離れた身体には汗が感じられる。しかしゴールに近い歩幅には少しの渋滞もなかった。

旅は大平街道で終わった。