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ふたりいるとき

二人いるとき

宮本 百合子

「新女苑」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

毎土曜の午後、多喜子は洋裁の稽古をしているのであった。

「狸穴からだから、途中にかかるのよ」

「きょう、お宅は? やっぱりおそいの?」

「夕飯まで図書館へまわって来るんですって。この頃あのひと一生懸命だわ、呼ばれないうちにせめて今やっている分だけでもまとめたいって」

参吉は或る私立大学の講師をしている傍ら、近代英文学の社会観とフランス文学のそれとの比較をテーマに研究しているのであった。

「うちの伍長さんだって危いもんだわ」外套のボタンをはずしながら好子が云った。

「落着かないわねえ。何万人もが私たちみたいな心持でいるんだと思うと、夜中に目が醒めた時なんかとても変な気がするときがあるわ」

秋ごろ戦死した或る新劇の俳優の噂が出た。

「でも私秋子さんをまだ幸福な方だと思うわ、亡くなった旦那様の仕事を守ってやって行くちゃんとした俳優としての才能が御自分にもあるんですもの」

「そう簡単なものかしら……」

参吉と話したときもそうであったが、多喜子には、別な内容で秋子という女優のひとが経て行かなければならないであろう苦難の複雑さが深く思いやられるような気がした。

「一緒の仕事をしていて、しかもあの方たちみたいに、どっちかって云うと旦那様が指導的だった名コンビは、私は片方に死なれるのはこわいと思うわ。