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ふたりのもうじん
二人の盲人
平林 初之輔
「祖国 第三巻第一二号」1930(昭和5)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,366 字 · 13 页
五
藤木にもやっぱり見えないのだ、ということを、彼は忘れていた。彼にはもう、理性はなかった。彼の全存在が、憎悪と呪いの塊になっていた。
「わしが自分でする」
三分間ほどしてから、彼は苦しそうな咽喉から答えて、立ち上がった。
「その間に、お前はコーヒーでも沸かしておあげ」
玄石は、家の中の勝手は隅から隅まで、自分の身体のように暗記していた。眼は見えなくても、家の中ではちっともあぶなげはなかった。ちっとも間誤つきはしなかった。彼は電気のついていない奥の間へ、ずんずん歩いていった。台所では、千鶴子がガスに火をつけている音が聞こえた。
五
茶の間へひき返してきた玄石の顔には、なぜか、微笑が浮かんでいた。彼は前とすんぶん違わない場所へ座って、長火鉢の猫板に、ぐたりと上体をもたせた。咽喉はやっぱりひいひい鳴っていた。
千鶴子も、コーヒーを持って茶の間へひき返してきた。玄石は、小さい硝子瓶を猫板の上にのせて、注射器を取り上げた。瓶の蓋は開かれた。注射器は中へさしこまれた。玄石は、ちょっと額に皺をよせて、首をかしげた。
「大丈夫かい、玄石君?」
彼は答えなかった。彼の指は細かく慄えていた。