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ふたりのもうじん

二人の盲人

平林 初之輔

「祖国 第三巻第一二号」1930(昭和5)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,366 字 · 13 页

青空文庫

四

だが、藤木だってやっぱり不具者じゃないか。どうせ不倫をするくらいなら、何も彼を選ばなくたって、他に相手はありそうなものだ。しかし、藤木の身体のどこかに、彼女を惹きつける何物かがあるのかもしれない。それに、藤木と千鶴子とが、怪しいか怪しくないかは、眼の見えない俺には、絶対に確かめることのできないことだ。そして、それはいずれにしろ同じことだ。たとい何でもないにしたところで、いったんこんな疑いが、俺の心に起こった以上は、この人が存在する以上は、俺の心はいつまでも平和であり得ないのだ。よし……彼の心に、怪しい決心がさっと閃いた。

彼の肺臓からしぼり出される呼気が喉頭に、きしんでぜいぜいと音をたてるのが、夜の静けさの中に、木枯しのように、気味悪く聞こえていた。

四

「玄石君いるかね」

藤木の声が玄関に聞こえた。玄石は瞑想から覚めて、ぎょろりと乳灰色の眼球を回転さした。彼は、何か秘密を見破られた時のようにおびえた。

「さあどうぞお上がりなすって」千鶴子の声がつづいて玄関で聞こえた。

玄石は、茶の間で耳をたてた。

――二人は、玄関でどんな真似をしているだろう? 笑い声が聞こえる。