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にはいじん
二癈人
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1924(大正13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,388 字 · 23 页
初めの間は、今夜も失策をしやしないか、今夜も寝とぼけやしないかと、それが非常に恐ろしかったのですが、段々、単に睡るというそのことが恐ろしくなって来ました。いや睡る睡らないに拘らず、夜になると寝床に入らなければならぬということが脅迫観念になって来ました。そうなると、馬鹿げた話ですが、自分のでなくても、夜具というものを見るのが、云うに云われぬいやな心持なんです。普通の人達には一日中で最も安らかな休息時間が、私に最も苦しい時なのです。何という不幸な身の上だったのでしょう。
それに、私にはこの発作が起り始めた時から、一つ恐ろしい心配があったのです。というのはいつまでもこのような喜劇が続いて、人の物笑いになっている丈けで済めばいいが、若しこれが何時の日か取りかえしのつかぬ悲劇を生むことになりはしないか、という点でした。私は先にも申上げました様に、夢遊病に関する書物は出来る丈け手を尽して蒐集し、それを幾度も幾度も読み返していた位ですから、夢遊病者の犯罪の実例なども沢山知っていました。そして、その中には数々の身震いする様な血腥い事件が含まれていたのです。気の弱い私がどんなにそれを心配したか、蒲団を見てさえ気持が悪くなるというのも決して無理ではなかったのです。