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にじゅうしんぞう

二重心臓

夢野 久作

「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页

青空文庫

「それじゃ云いますがね……貴女はね……」

「あたしがね……」

「この頃毎晩女中が寝静まってしまってから……轟さんの処へ押かけて行って、結婚したい結婚したいって仰言るそうじゃないですか……ハハハ……どうです……吃驚したでしょう……」

呉羽は見る見る中に硝子瓶のように血の気を喪った。屹っと身を起して笠支配人の真正面に正座して、唇をキリキリと噛んだまま睨み付けた。心持ち青味を利かした次の幕のメーキャップが一層物凄く冴え返った。カスレた声が切れ切れに云った。

「……それを……どうして……知ってらっしゃる」

笠支配人は鬼気を含んだ相手の美くしさに打たれたらしかった。テラテラした脂顔の光りを急に失くして、両手をわなわなと握合わせながら腰を浮かした。

「……そ……それは……ソノ……轟さんから聞きました。四五日……前の事です。轟さんは、思案に余って御座ったらしく、私に二度ばかりコンナ話をされたのです。劇場の地下食堂で轟さんと二人切りになった時です」

呉羽が深くうなずいた。すこし張合が抜けたらしかった。

「あなたが探り出した訳じゃないんですね」

「そうです。轟さんから直接に聞いたのです。