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にじゅうしんぞう
二重心臓
夢野 久作
「オール読物」1935(昭和10)年9、10、11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,188 字 · 129 页
たのでしょう。今の妾みたいな人間になってしまったのです」
「結構じゃないですか」
「……まあ聞いて頂戴……その大正の十年ごろ静岡あたりを中心にして東海道から信州へかけて荒しまわっていた殺人強盗で、本名を石栗虎太、又の名を生蕃小僧というのが居りました。生蕃みたいに山の中へ逃込むとソレッキリ捕まらない。人を殺すことを何とも思っていないところから、そう呼ばれていたのだそうです。その生蕃小僧がこの柳仙の一軒屋に眼を付けたのですね。……どうしてもモノにしようと思って色々様子を探ってみたんだそうですが、その柳仙の一軒屋というのは、見付の人家から二三町も離れていて、呼んでも聞こえないばかりでなく、四方八方に森や、木立や、小径がつながり合っていて、盗賊には持って来いの処だったのですが、しかし、何よりもタッタ一つ、一番恐ろしい番犬がこの柳仙の家をガッチリと護衛っている事が、最初から判明っているのでした。……その番犬というのは見付の町で、土木の請負をやっている等々力親分の一家でした。
その頃見付の宿で、等々力雷九郎親分の後を嗣いでいたのが等々力久蔵という、生蕃小僧と同じ位の年頃の若い親分でした。