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いぶせますじによせて
井伏鱒二によせて
小山 清
「新潮 第五十巻四号」新潮社、1953(昭和28)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,419 字 · 11 页
井伏さんの最初の創作集「夜ふけと梅の花」と太宰治の「晩年」とを比べて、私は井伏さんの方に及び難いものを感ずるのだが、人はどうであろうか。「晩年」の諸作には、太宰自身もいっているように、どこかでんでん太鼓の美しさのようなものが感ぜられる。「夜ふけと梅の花」の持っている、あのなんともいえない、明るさと暗さのようなものはない。井伏さんに比べると、太宰ははるかに固くなっている。「夜ふけと梅の花」に対抗するに、太宰は「晩年」集中のなにを以てするか。おそらく、あの「傑作の相貌」を具えているという「めくら草紙」であろうが、あの作品の中で、竹のステッキで足もとの草を薙ぎ倒し、歯がみをしている太宰の姿よりは、「夜ふけと梅の花」の中の、電信柱の下で前後左右によろめきながら、自分を脅す質屋の番頭の幻影に対し、「やい。ちっとも怖くはないぞ。出て来い」と呶鳴っている井伏さんの姿の方が、気負ってなくてユウモラスで、なんだかいいじゃないか。私はどうにも心が惹かれてしかたがない。「夜ふけと梅の花」、この作品はくらい心の歌である。おそらく、読者が想像するよりは、はるかにくらい心の歌である。