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こうび

交尾

梶井 基次郎

「作品」1931(昭和6)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,765 字 · 12 页

青空文庫

今度は散歩に出かける。帰って来ると、またチャブンという音がする。あとはやはり同じことである。その晩は、傍へ置いたまま、私は私で読書をはじめた。忘れてしまって身体を動かすとまた跳び込んだ。最も自然な状態で本を読んでいるところを見られてしまったのである。翌日、結局彼は「慌てて跳び込む」ということを私に教えただけで、身体へ部屋中の埃をつけて、私が明けてやった障子から渓の水音のする方へ跳んで行ってしまった。――これ以後私は二度とこの方法を繰り返さなかった。彼らを自然に眺めるにはやはり渓へ行かなくてはならなかったのである。

それはある河鹿のよく鳴く日だった。河鹿の鳴く声は街道までよく聞こえた。私は街道から杉林のなかを通っていつもの瀬のそばへ下りて行った。渓向うの木立のなかでは瑠璃が美しく囀っていた。瑠璃は河鹿と同じくそのころの渓間をいかにも楽しいものに思わせる鳥だった。村人の話ではこの鳥は一つのホラ(山あいの木のたくさん繁ったところ)にはただ一羽しかいない。そして他の瑠璃がそのホラへはいって行くと喧嘩をして追い出してしまうと云う。私は瑠璃の鳴き声を聞くといつもその話を思い出しそれをもっともだと思った。