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きょうのしき

京の四季

和辻 哲郎

「新潮」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,914 字 · 16 页

青空文庫

京都に足かけ十年住んだのち、また東京へ引っ越して来たのは、六月の末、樹の葉が盛んに茂っている時であったが、その東京の樹の葉の緑が実にきたなく感じられて、やり切れない気持ちがした。本郷の大学前の通りなどは、たとい片側だけであるにもしろ、大学の垣根内に大きい高い楠の樹が立ち並んでいて、なかなか立派な光景だといってよいのであるが、しかしそれさえも、緑の色調が陰欝で、あまりいい感じがしなかった。大学の池のまわりを歩きながら、自分の目が年のせいで何か生理的な変化を受けたのではないかと、まじめに心配したほどであった。

京都から時々上京して来たときにも、この緑の色調の相違を感じなかったわけではない。しかし三日とか五日とかの短い期間だと、それはあまり気にならず、いわんや苦痛とまではならなかった。それが、引っ越して来て居ついたとなると、毎日少しずつ積もって行って、だんだん強くなったものと見える。いわゆる acceleration の現象はこういうところにもあるのである。とうとうそれはやりきれないような気持ちにまで昂じて行った。自分ながら案外なことであった。京都に移り住む前には二十年ぐらいも東京で暮らしていたのであるが、かつてそういう気持ちになったことはない。