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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

それにはもちろん、何か、訳があったのに相違ございません。人々は折にふれては、自分勝手な臆測を逞しゅうしていたのでございます。その中にも、穿ち過ぎたものに、かようなのがございました。それは、半四郎とても、以前は、娘道成寺の鐘入りには、普通、誰でもがするように、すっぽんから奈落に抜けそこで、後見の手を借りて、蛇体の扮装をし、それから、また、舞台に伏さった鐘の中へ迫り上るようになさっていた――しかし、何時かのこと、奈落へ下りる時、後見の不注意で、顛落した――怒に燃えた半四郎が、男を責め折檻した。その男は、自分の過失とは云え、余りもの無体に、主人を呪って、芝居がはねた、その夜、奈落の片隅に、縊れて死んだ。――すっぽんから、奈落に降りる半四郎の目に、その男の怨めしげな、姿が見えるのだ――それがために、娘道成寺の出し物がある時には、決して、奈落へ降りないのだ――と、いうような噂でございました。これは、よくある奈落につきものの怪談と、半四郎とを結びつけたあまりにも、穿ちすぎた考えと思えるようで御座りまして、結局は、半四郎が、家に伝る、蛇体の隈どりを誰にも見せたくなかった――見せないがために、後見さえも退け、舞台に伏った、造りものの、鐘の中を、密室のつもりで、自分の姿を誰にも見せず、後見の目さえも逃れて、隈をとっていた