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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

私は、もう十数年間も、師匠、岩井半四郎の後見を勤めている男で御座います。私には、師匠を殺害せねばならぬ理由はございません。恐らく、師匠は、誰にも殺される理由はないと存じます。しかし、それと同様に、誰にでも殺される理由をも持っていらっしゃる方で御座いました。こうした私の言葉は、変に聞えるかも存じません。しかし、あの人を人とも思わぬ、傲慢な、半四郎師匠に、芸を離れて、好感をもっていた人が、この世に幾人ございましょう。あの方に、あの芸がなかったなれば、あの不遜な態度だけでも、十分に、殺意をさえ起させるほどで御座います。これは、私が、誇張して申上げる言葉では御座いませぬ。

こうしたことを申上げるまでもなく、御存じでございましょうが、後見は踊られる方のために、総てを捧げなければならないのでございます。これと同様に、踊られる方にいたしましても、後見に同情なしに踊る訳にも行かないのでございます。――踊り手と、後見とが一つになりまして、影の形に添うようにしなければならないのでございます。半四郎師匠も、勿論、こうしたことは御存じでございますし、何分にも、名人として、自他ともに許されているほどのお方でございますから、気苦労いたしながらも、楽々と働けまして、大変に楽な後見ではございましたものの、ああした舞台でも、人を人と思わ