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きょうかのこむすめどうじょうじ

京鹿子娘道成寺

酒井 嘉七

「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,841 字 · 49 页

青空文庫

私のお師匠は、この岩井半四郎一座の座つき長唄の、立三味線を弾いていらっした方でございまして、芸名を杵屋新次と申されました。前ころは、お芝居のほかには、上方のお稽古だけをしていらっしたのでございますが、いつの頃からか、月に十日のお稽古を、こちらでもなされていたのでございます。何分にも、巽検番の指定なさったお師匠でございますので、お稽古人は、ほとんど全部、芸者衆でございました。その中で、わたし一人が、素人の娘でございましたのでお師匠さんの目にも、つい注意されていたのでございましょう。私にはお稽古の合間などに、よく、お芝居の話、それも、座付きになっていらっしゃる、岩井半四郎一座の話をよく、お聞かせ下さったのでございました。そうした、お芝居の話の出た、ある時でございましたが、お師匠が、

「私は、いつも、半四郎師匠の立三味線を弾いてはいますものの、どうも、ああした人がらのお方とは、気が合わないので困ります」

という様なことを申されたのでございました。私が、不審に存じまして、

「あんな人柄とは、どうしたお方でございます」

と、おたずねいたしますと、

「芸に関する限りでは、私は心から敬服はしておりますものの、とても傲慢な、そして、無慈悲な、人格のないお方でございますよ」