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しぐれがさ

人情武士道

山本 周五郎

山本周五郎『人情武士道』。同一底本的分册已合并为一书。收入:しぐれ傘、竜と虎。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 页

青空文庫

「拙者も同様です、上役として貴方くらい仕えにくい人はありません」

「なに、な、なに、儂が仕えにくいと」老人は眼を剥いた。

「しばしば我慢のならぬことがあります」

「云ったな、よ、よし」竜はついに雲を呼び、虎は風を巻き起してしまった。人々の興味をもって期待していた瞬間がやって来たのである。「よく申した、では直ぐに加役を辞退しろ」

「拙者にとってもその方が仕合せです、幸い受持ち分もひとかたついたところですから、その始末をして直ぐお暇を致します」

「おう、此方もそれでさっぱりするわ」

きびきびと話がついてしまった。

役部屋へ退いた至が、受持ちの仕事を片付けているところへ、ようやく八木次郎太が出仕して来た。挨拶をされたが、至は返辞もせずに片付け物に掛っていた。そして一刻あまりかかってやっと始末を終えた至が、自分用の筆硯を纏めて包むのを見ると次郎太は不審そうに「どうした、なにかあったのか」と訊ねた。至はむっとした顔で、冷やかに立ちながら答えた。「昨日の話は、一応取次いでおいた」

「ええ……もうか」

「然し取次いだだけだ、正式のことは内田老職にでも頼むがいい、あの人なら灰島殿のにがてだから旨く運ぶだろう、拙者は今日限り加役御免だ、あとの事は頼むぞ」