轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しぐれがさ
人情武士道
山本 周五郎
山本周五郎『人情武士道』。同一底本的分册已合并为一书。收入:しぐれ傘、竜と虎。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 页
「ああ彼処にいますよ」母の声である。――珍しい、母がこんなところへ。そう思って振返ると、堤の上を来るのは母だけではなく、娘が一人いっしょだった。至はどきっと胸をうたれた、それは灰島のむすめ幸枝だったから。
「至、釣れましたか」母は明るく云いながら寄って来た、「幸枝どのが珍しくお見えだったから、青野の地蔵尊へお参りをしようと思って出て来ましたよ、おまえはまた相変らずのお振舞いですか」
「しばらくでございました」幸枝がそっと会釈した、「……御機嫌よろしく」
「しばらくでした、お変りもなく」至の声は冷たかった。
「有難う存じます、貴方さまにも」
「この子の釣りはねえ」母は二人のあいだの冰ったものをほぐすように、わざと明るい調子で幸枝に向って云った、「……魚を釣るのではなくて御馳走をしに来るんですよ、こんな漁師ばかりなら魚たちも助かりますね」
「まあ小母さまがお口の悪いことを」
幸枝は遠慮がちに、そっと声をたてて笑った。
「ねぇ至や」母はふと調子を変えた、「……此処までお伴れ申したけれど、幸枝どのはお疲れのようすだし、地蔵尊へはわたし独りでお参りして来ますから、少しのあいだおまえお相手をしていてお呉れな」