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しぐれがさ

人情武士道

山本 周五郎

山本周五郎『人情武士道』。同一底本的分册已合并为一书。收入:しぐれ傘、竜と虎。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,700 字 · 51 页

青空文庫

七

「晴れて世間へ、……と云うとかねは」

「わたしが悪かったのですよ」母は口惜しそうに声を震わせて云った、「母がもっと注意していたら、こんな過ちはさせずに済んだでしょう、自分では娘のように眼をかけていたつもりでも、親身でないものは矢張り隙があるのだねえ、そう考えると、母は、かねに済まなかったと思います」

「誰です、相手は誰ですか」至は眉をひそめた。

「八木次郎太どのです」

わっと、つきあげるようなかねの泣き声を截って、鯉のはねる音が聞えた。至はその水面にひろがる波紋を見ながら、かたく唇を結んでいた。

七

「何処へ行くんだ」

「まあいい、黙って来ればいいんだ」

「然しもう暮れかかるし」

「なに、暮れれば夜、明ければ朝になるだけさ、別に驚くほどのことはないよ」

至は平然と歩いてゆく。……菅生川の堤に沿って、道は城下からもう小一里も遠く来ている、すでに空は残照も黒ずんで、星が鮮かに光を増し始めていた。

「……待って呉れ」

八木次郎太が不意に立止まった、なにか思い当ったという眼つきである。

「なんだ」至はそのまま歩いていた。

「に、西郡、……洞村へ行くのだな」

唇の色が変っていた。