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にんげんとゆわかし

人間と湯沸かし

小川 未明

「婦人倶楽部」1927(昭和2)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,082 字 · 7 页

青空文庫

あるときはガスの火が、青白く燃え上がるところへ乗せられて、身にその炎を浴びていることもありました。さすがにこのときばかりは、忍耐強い湯沸かしも苦しいとみえて、うん、うん、うなり声をたてていたのであります。そればかりではありません。お嬢さんや、坊ちゃんたちは、すこしもこの湯沸かしにたいして、同情はありませんでした。犬や、ねこや、まりや、ハーモニカのようなものにたいしては、やさしい、しんせつなお子供さんたちでありましたが、どういうものか、この湯沸かしをかわいそうだとも、気の毒だとも思われなかったのでした。しかし、そんなにされても湯沸かしは、べつに不平をもらしたことはありません。それどころでなく、

「シン、シン、シン、シャン、シャン、シャン……。」と、おもしろそうに、またのんきそうに、火にかけられながら歌などを唄っていることもありました。

たとえ、どんなに体がじょうぶで、そのうえ忍耐強く、また、のんきな性質であっても、運命には敵することはできません。不幸な湯沸かしは、あまり体を乱暴に取り扱われすぎたせいもあって、ついに底の方に、小さな穴があいたのでありました。