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にんげんやまなかさだお

人間山中貞雄

伊丹 万作

「シナリオ 昭和十三年十一月臨時増刊・山中貞雄追悼号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,627 字 · 8 页

青空文庫

ことわつておくが私は決して山中の作品をけなすために病中をしのんでまで筆を起したのではない。のち、直接山中の人間と相識るにおよんでその人間とその作品とを比較検討するに、どうも作品のほうが大分人間に敗けているように思われてならない。したがつてその人間に対する比例からいつても彼の作品をこの程度にけなすことはこの場合絶対に必要なのだ。

私が初めて山中と口をきいたのはいつのことか、いくら考えてみても思い出せないのであるが、いずれにしてもそれは監督協会創立当時、そのほうの必要からいつとはなしに心安くなつたものに相違ない。したがつて我々の交際はいつも集会の席上にかぎられていて、さらに進んで互の居宅を訪問するとか、あるいは酒席をともにするとかいうところまではついに進展しないでしまつた。

だから私は彼の私生活の片鱗をも知らない。また長鯨の百川を吸うがごとき彼の飲みつぷりにも接したことがない。にもかかわらずほんの二度か三度会ううちに私はすつかり山中が好きになつてしまつた。

「好漢愛すべし」この言葉は私の山中に対する感情を言い得て妙である。

監督協会の成立とともに日本の監督の九十パーセントを私は新しい知己として得たし、この中には随分偉い人も好きな人もあるがまだ山中ほど愛すべきはいず、山中ほどの好漢もいない。