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にんげんさんすいずまき

人間山水図巻

吉川 英治

「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页

青空文庫

『おれひとりならと思うがね……そこらにごろごろ寝ているのも、みんな流亡のあわれな身の上ばかりの寄り集まりだ。これやあ、どうにも、世の中のせいらしいぜ』

『世の中というのは、べつに有るわけなものじゃあるまい。ここにいる人間の世の中とは、ここにいる人間同志の作っているものだからな』

『そんな事はない、何たって社会がわるければ、俺たちも、善くは住みかねる』

『だからもっと住みよい、良い世の中を作りたいものじゃないか』

『それはたわ言だ。考えてみろ、俺たちはもう南宋の社会からは容れられない人間だ。こうして深山に潜んで喰いつないでゆくのがせきのやまじゃないか』

『どう理窟をひねっても、泥棒をやっても仕方がないとする理由は見つからないね。何しろ自分が生きるために、果てなく人を犠牲にしてゆくんだからな』

『分ってるよ、分ってるよ、うるせえなあ』

気にさわったか、夏駿は、獰猛な顔をして見せながら、仏像の頭を炉の中へ燻べこんだ。煙りの中に屈めこんだ友の肩から横顔に、蕭照は、人間というものが、極めて短い年月のうちに何千年も前の非文明時代の野性に忽ち立ち回るものだという事実の影を見たような気がした。