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にんげんさんすいずまき
人間山水図巻
吉川 英治
「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页
だがそれから、大行山の山寨に、百日ほども同居しているうちに、そんな自覚は持った覚えもないような野人にまで、彼自身も成っていた。つまり蕭照もいつのまにか、平気で旅人を掠め、里に降りては風の如く、人家を荒して去る盗賊の一箇になりきってしまったのである。
ところがその後間もなく、頭の夏駿が、強い旅客に出合って、旅客のために、反対に斬り殺されてしまったのである。前身が前身だけに、そこで自然、蕭照が次の頭にあがめられていた。
こうなると彼も今はもう大行山中の大盗の頭目として、悪業の足を洗うことはできなかった。いや真面目な業に帰ろうなどとは思ってみることもなくなった。
と、或る年の夏。山寨の下の古寺から、手下共が、ひとりの旅人を捕まえて引っぱって来た。
『なんだ、こんな薄汚ねえ老いぼれを』
蕭照は、張合いのない顔をした。下の山寺は、ともかく屋根や荒壁はあるので、山中の旅人がよく雨露をしのぎ、折々、居ながらにいいえものを獲るのであったが、今朝のは、面ざしは上品な老人だが、ろくな持物はなさそうだし、衣服を剥いでも、彼の慾をみたすには余りに不足だった。
『まあいい、裸にしてみろ』