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にんげんさんすいずまき
人間山水図巻
吉川 英治
「東京 創刊号」1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 页
公綽は、役所から警吏を連れて行って、直に、十二箇の柩をかついでいる男たちを捕縛してしまった。後、棺を破ってみると米がいっぱい詰込んであった。いう迄もなく、これは穀物禁輸の布令を破って、隣県に米を流し、巨利を獲ようと計った闇屋たちだったのである。
著者の公綽は、どうしてこれを一見して観破したかを、その書では、得意な民治体験として記しているのであるが、いま蕭照の空腹にとらわれている頭をかすめたその記憶からは、まったく質の異るものが考えられていた。
『おい、待て』
彼は、駈け戻って、やにわに、葬式の前に立ちふさがり、
『お前達は、闇屋だろう、棺を下ろせ、棺の中は、米にちがいない』
と、御林軍以来、久しく忘れていた声を出して、脅しにかかった。
すると、柩のそばにいた男が歩いて来て、彼の肩を打ちながら笑った。
『蕭照じゃないか、よせよ、そんな真似は』
『やあ……』と、蕭照は忽ち悪党ぶッた見得を失って、どぎまぎと相手の顔を見まもった。
『……おどろいたね、君か』
『君かもないものだ、御林の旧友を、恐喝するやつがあるものか。北宋は亡び、金の南宋となって、年号も建炎二年と革まったが、おたがいが流亡してからでも、考えてみろ、まだ一年と少しか経っていやしないじゃないか。