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にんげんかい

人間灰

海野 十三

「新青年」博文館、1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,345 字 · 33 页

青空文庫

工場はあまりに広すぎた。署長の腰骨が他人のものとしか考えられなくなった頃、液体空気貯蔵室へ来た。

「君は幽霊じゃあるまいな」と早や道をしてその室に待っていた田熊社長が署長の顔を見ると皮肉を飛ばした。

「わしはもう夙くの昔、君がこの工場の一隅で八人目の犠牲者になっとることと思って居ったわい」

丘署長はやりかえしたいのを、青谷技師の前だというので、懸命に我慢をした。

「さあ、液体空気を頒けてさし上げましょう」そういって青谷技師は、床の上から手頃の魔法壜を台の上に引張りあげた。

「それから序に、御注意までに、液体空気の性質を実験してごらんに入れましょう」

青谷技師は、側の棚から、大きい二重硝子の洋盃を下ろした。それは一リットルぐらい入るように思われた。次に彼は、床の上から魔法壜をとりあげて、洋盃の上に口を傾けた。ドクドクと白い靄が湧いてくる中を例の美しい空色の液体が硝子の器の中に、なみなみと湛えられた。

「どうです、綺麗なものでしょう。広重の描いた美しい空の色と同じでしょう」

丘署長も田熊氏も感心して見惚れた。

「なにしろこの液体空気は氷点下百九十度という冷寒なものですから、これに漬けたものは何でも冷え切って、非常に硬く、そして脆くなります。