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にんげんかい
人間灰
海野 十三
「新青年」博文館、1934(昭和9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,345 字 · 33 页
この方も博士の言葉を信ずるのに参考になったばかりで、夫人の遺書一つ発見されなかったのである。
「どうも相変らず工場の方は苦が手だ」と署長は痛む腰骨を叩きながら云った。これは帰って、昨夜捕えた血まみれ男を調べる方が捷径に違いない。
一行は自動車で引揚げていった。
3
「村尾某の陳述――」
と冒頭して鉛筆で乱雑に書きならべてある警察手帖をソッと開きながら、署長席の廻転椅子にお尻を埋めた丘署長はブツブツ独り言を云っていた。
「村尾六蔵、三十歳か、なるほど……中々面白い名前をつけたものだ。さてその日の足取りは……まず第一が……」
こんな風に、ゆっくり読みかえしてゆく丘署長の遅いスピードにはとてもついてゆけないから次にその要点を述べる。血まみれの怪漢のこの足取り陳述の中には、この事件を解く重大な鍵が秘められてあったことは、後に至って思い合わされたことだった。
(一)村尾某は東丘村(東西に長く横わる右足湖の東の地を云う。湖口は東丘村が湖に臨むところを云う)から、右足湖を越えて、庄内村(右足湖の西の地を云う、空気工場はそれの湖水に臨む湖尻にある)へ入ろうとしたが途中、東丘村で日が暮れ、湖水にはまだ遠かったこと。