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にんげんはんえい

人間繁栄

豊島 与志雄

「改造」1924(大正13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,038 字 · 38 页

青空文庫

ぎらぎらした眼の光が消えて、変にぼんやりした眼付を空に据えて、頬の筋肉が堅くこわばっていた。その頬が弛んでくるのを待って、彼は初めて口を開いた。

「お互に云い争っていてもきりがないから、落付いて心の中のことを話し合ってみようじゃないか。」

何の返辞もなかったので、彼は次の言葉を考えたが、先ず火鉢に炭をついで、熱い茶をのんだりした。

「俺のことはもうお前もよく知ってる筈だ。で此度は、はっきり俺の腑におちるように、お前の考えをきかしてくれないか。俺にはどうもお前の考え方がはっきり分らないんだが、……」

「先程から申した通りですわ。」

平素の通りの調子で彼女は答えた。そしてその様子にも、もう苛立った所はなくなって、いつもの人形に返っていた。ただ眼からほろりと涙を落した。

「いや、お前の考えは分っているが、どうしてそんな風に考えるようになったか、それを聞かしてくれないか。」

そして何度も促されて、彼女は静な調子で云い出した。

「前にお話したように覚えておりますが、私はあなたの所へ、自分の身を捨てるつもりでやって参りましたの。どうせ一度お嫁入りした身体だから、それを投げ出して、父のためを図りたい気もありましたし、あなたのお話を聞いて、生意気にあなたを救ってあげたいという気もありましたし、なんだかいろんな気持で参ったのでした