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かたきうちきょうだいがさ
仇討姉妹笠
国枝 史郎
「講談雑記」1936(昭和11)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,178 字 · 159 页
「はーッ」と不安の溜息を吐き、後を追って頼母も廊下へ出た。数間の先を猿は走っている。
「はーッ」
頼母はよろめきながら追った。猿は庭へ飛び下りた。頼母も庭へ飛び下りたが、猿の姿は見えなかった。
頼母はベタベタと地へ坐った。
「取られた! ……独楽を! ……淀屋の独楽を! ……猿に! ……はーッ……猿に! 猿に!」
恋のわび住居
それから一月の日が経った。桜も散り連翹も散り、四辺は新緑の候となった。
荏原郡馬込の里の、農家の離家に主税とあやめとが、夫婦のようにして暮らしていた。
表面は夫婦と云ってはいるが、体は他人の間柄であった。
三間ほどある部屋のその一つ、夕陽の射している西向きの部屋に、三味線を膝へ抱え上げ、あやめが一人で坐っていた。
※(歌記号、1-3-28)逢うことのまれまれなれば恋ぞかし
いつも逢うては何の恋ぞも
爪びきに合わせてあやめは唄い出した。隆達節の流れを汲み、天保末年に流行した、新隆達の小唄なのである。
あやめの声には艶があった。よく慣らされている咽喉から出て、その声は細かい節となり、悩ましい初夏の午さがりを、いよいよ悩ましいものにした。