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こんにちのせいかつとぶんかのもんだい
今日の生活と文化の問題
宮本 百合子
「生活の思索」教材社、1941(昭和16)年5月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页
それはそうあってさしつかえないのだと思う。でも、女店員がその謡曲による仕舞を稽古するということに果してどこまで働く女性の感情にとって必然があるのだろう。能や仕舞は庶民生活の中から自然にわき出した動作が要約され芸術化されたものではなくて、貴族生活、武士生活の感情と思想とが洗練し集約しつくした動きに象徴されたものである。習ってゆく道すじから云うと、能や仕舞ほど形式への絶対の服従を求める芸は殆ど他にない位と云える。お花でも投げ入れとか、お茶でも野立てとか、その場その時の条件を溌溂とした心に映して、工夫を働かせて人の心も自分の心も慰めるというものもある。仕舞はそういうものではない。その場の思いつきで舞われた仕舞というような例は天下にない。ふさわしい場面で、その場にふさわしい曲が舞われるというのが即興として許される限度で、そのふさわしさの判断にあたってやはり一朝一夕でない伝統の理解がものを云うのである。
百貨店の娘さんたちの朝から夕方店を閉じるまでの忙しさ、遑のない客との応接、心を散漫に疲れさせるそれらの条件を健全でない事情と見て、反対の解毒剤として、所謂落着いた古来の仕舞は健全と思われているのであろう。