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こんにちのせいかつとぶんかのもんだい

今日の生活と文化の問題

宮本 百合子

「生活の思索」教材社、1941(昭和16)年5月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

能の、動きの節約そのものの性質のなかには、明らかに日本の中世の社会生活からもたらされた被虐性、情感の表現を内へ追い込む性格が作用していて、しかも、ぎりぎりまで剪りこまれた外面へのあらわれの裡に、精神と情緒のほとばしる極限を表現しようとする芸術の手法である。自由な人間性の流露とは正に反対の手法である。

今日働く婦人として生活している若い女性たちの実感が、もしそのような芸術の手法にぴったりとするものであるとするならば、私たちはそこに深刻な問題を感じなければならないと思う。今日の日本の二十歳前後の女性たちが、その胸に謡曲の世界の女性たち、四百年も昔の女性たちが、歎いたような悲歎、怨じたような恨、怨霊となってその思いを語らずにいられないほど生きている間には忍んでいた苦悩などを蔵して生きていてよいものだろうか。

そこまで考えるわけではなく、ただ品のよい稽古事というのであれば、やはりそこに私たちの生ける文化への感情として考えさせられる点が在る。何故なら、それらの若い娘さんたちは、働く健気な婦人たちだのに、まだその働きの性質が自分の肉体に強いている無理を知らず、自分の生活の生理の要求に耳を傾けるだけの生活上の能力をもっていないという事実がそこに現れているのであるから。