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けさのゆき
今朝の雪
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页
峯子は、格別坂本をどういう目でみているというわけではなかったけれども、ただ今のそういう会社の社長秘書という特別な立場と、坂本の生来の如才なさ、通俗的な押し出しのよさ、などを考え合わせると、新潟という土地柄、おそくなる夜の時間がどんなに費されているか、推察されないこともなく思えた。
ありふれたそのような道を、異ってふんで行く力をもっているとも思える坂本であった。
第三者としてきく坂本の、妻に対する気持の表現は何か切実でなかった。夫の勤めるところだ辛棒してくれと、つれてゆかれることの方が夫婦の生活として肯けた。
おだてられ、あざむかれる妻ほど哀れに愚かしいものがあろうか。
峯子は、紀子のためばかりでなく自分の頬も微に赧らむのを感じた。
「紀子さん、坂本さんがそう云ったって自分で新潟へ行けばいいのに」
峯子は、タイプし上った紙を揃えて綴じながら呟くように云った。
「どっちつかずになったら困りゃしないかしら」
紀子は少し沈んだ面持ちになって、なお靴の踵を動かしていたが、峯子へきつく迅い掠めるような視線をなげた。
「峯子さんならきっと行っていらっしゃるわけね」