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ぶっぽうそうちょう

仏法僧鳥

斎藤 茂吉

「時事新報」1928(昭和3)年1月4日、5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,351 字 · 11 页

青空文庫

時は十時半を過ぎていた。

その途中で一人の青年に会った。その青年は矢張り比叡山上で私等と一しょに歌の修行をし、会の散じてから単独で高野に来、今やはり仏法僧鳥を聴きに奥の院に行く途中なのであった。

『今しきりに啼いているところだから、非常にいい都合だ。ただ君に頼むがね、何時ごろ迄啼き続けているか面倒だが確かめて呉れませんか。僕等はKという宿坊にいるから明日の朝一寸知らして呉れたまえ』

こうT君が青年に頼み、何か期するところがあるような面持で歩いた。その時にはもういつのまにか大きな月が出て、高野の満山を照らして居り、空気が澄んでいるので光が如何にも美しく、悪どく忙しくせっぱつまった現世でも、やはり身に沁みるところがあった。私等はそれでも提灯をつけたまま到頭宿坊に帰って来、何か発見でもした様な気分で一夜ねむった。

翌朝T君は、起きると直ぐ高野山の地図を買って来て調べていた。貧しい朝食をすまして横になっていると、そこにゆうべの青年が報告にきた。青年はゆうべ奥の院に行った時には、鳥の声はしきりにして居ったそうである。それが十一時半になるとぴたりと止んで、午前一時まで二たび啼くのを待っていたが、到頭啼かずにしまったというのである。