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ぶっぽうそうちょう

仏法僧鳥

斎藤 茂吉

「時事新報」1928(昭和3)年1月4日、5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,351 字 · 11 页

青空文庫

この報告は、T君の説を確かめるのに非常に有力であった。それのみではない。T君の調べた地図に拠ると、ゆうべ鳥の啼いた方向にはそう深い森林が無い。寧ろ浅山と謂って好い。それから、そこを通ずる道路がありそこに一二軒の人家がある。

『どうです。声の発源点は此処ですよ』

こう云ってT君は大きな手の指で、その人家のところを圧しつけたりした。青年は最初は何の事だか分からず、怪訝の顔をしていたが、仏法僧鳥の声の人工説だということを知って、『実に惜しい』という顔をありありとした。茲に於て私等の三人と一人の青年とを加えて四人は人工説に傾いてしまった。

けれども、O先生はこの説を是認されなかった。『それは、Tさんの説のように人工かも知れない。けれども人工であったとしても、数百年間この事を他へ漏らさない一山の人々は偉いんです。やっぱり本物の鳥と思ってきくんですね。それが空海の徳でしょう。正岡子規先生ではないが、弘法をうずめし山に風は吹けどとこしえに照す法のともしび。ですよ』こう云われるのであった。

私等は雨の晴れ間を大門のところの丘の上に上って、遙か向うに山が無限に重なるのを見たとき、それから其処のところから淡路島が夢のようになって横わっているのを見たときには、高野山上をどうしても捨てがたかった。