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たにんのなつ
他人の夏
山川 方夫
「中学時代 夏休み臨時増刊号第一五巻第六号」1963(昭和38)年8月5日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,115 字 · 7 页
海岸のその町は、夏になると、急に他人の町になってしまう。――都会から、らくに日帰りができるという距離のせいか、避暑客たちが山のように押し寄せてくるのだ。夏のあいだじゅう、町は人口も倍近くにふくれあがり、海水浴の客たちがすっかり町を占領して、夜も昼も、うきうきとそうぞうしい。
その年も、いつのまにか夏がきてしまっていた。ぞくぞくと都会からの海水浴の客たちがつめかけ、例年どおり町をわがもの顔に歩きまわる。大きく背中をあけた水着にサンダルの女。ウクレレを持ったサン・グラスの男たち。写真機をぶらさげ子どもをかかえた家族連れ。真赤なショート・パンツに太腿をむきだしにした麦藁帽の若い女たち。そんな人びとの高い笑い声に、自動車の警笛が不断の伴奏のように鳴りつづける。
そこには、たしかに「夏」があり「避暑地」があり、決して都会では味わえない「休暇」の感触があったが、でも、その町で生まれ、その町で育った慎一には、そのすべてはひとごとでしかなかった。いわば、他人たちのお祭りにすぎなかった。だいいち、彼には「休暇」も「避暑地」もなかったのだ。
来年、彼は近くの工業高校に進学するつもりでいた。