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たにんのなつ
他人の夏
山川 方夫
「中学時代 夏休み臨時増刊号第一五巻第六号」1963(昭和38)年8月5日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,115 字 · 7 页
その人を好きなように死なしてやるほうが、ずっと親切だし、ほんとうは、ずっと勇気のいることなんだ、って……」
女の顔に夜光虫の緑の燐光が照って、それが呼吸づくように明るくなり、また暗くなった。女は怒ったような目つきで、海をみつめていた。
「ぼくの親父も、自殺したんです。背骨を打ってもう漁ができなくなって、この沖で銛をからだに結えつけてとびこんじゃったんです。……あなたも、ぼくはとめはしません」
彼は岸に顔を向けた。そのままゆっくりと引きかえした。真暗な夜の中で、ただ夜光虫だけが彼につづき、波間にあざやかに濡れた色の燐光を散らしていた。
真赤なスポーツ・カーが、慎一のいるガソリン・スタンドに止まったのは、翌日の夕暮れ近くだった。ガソリンを入れに近づく慎一の顔を見て、女はサン・グラスをとり、急に目を大きくした。
「昨夜は」といい、女は笑いかけた。「……ねえ、あのお話、ほんとう?」
「ほんとうです」と、慎一は答えた。
「……そう。ありがと。私、あれから一時間近くかかって、やっと岸に着いたわ」
女は、慎一の手を握った。
「あなたに、勇気を教えられたわ。それと、働くってことの意味とを」