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しゃぼてんのはな

仙人掌の花

山本 禾太郎

「猟奇」1932(昭和7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,282 字 · 19 页

青空文庫

尚過日は沢山の御手当を頂戴仕り万々難有御礼申上候、来年は御健やかなる体を拝し度、是非御入湯被下候様御願申上候

尚々御預り申上居り候(書籍並に画の道具類)御送付可申上候哉如何一寸御命じ被下度候

九月二十七日

と記されてあった。

日が暮れて電気が点いていた。

日記を繰って見ると、山中へ行ったのは五月十二日であった。山代郵便局のドアを開いて出てきた男は、ほんのただ一瞬間顔を見合せただけであったが、閑枝の記憶にのこるそのおもざしは今の夫に似ているようであった。永い間閑枝の胸に抱かれてきた未知の男の姿が、今現実なものとなって閑枝の前に現れた、それが夫である。

机の上には四通の手紙が置かれてあった。

閑枝は魂を抜き去られたもののようにその前に座っていた。やがて、憤りに似た感情が閑枝の胸に湧き起った。それは二年の間を胸に抱きしめて愛撫に磨いた珠玉を、泥靴で踏みくだかれた口惜しさと、腹立しさとであった。

閑枝は幾度読み返したか知れない四通の手紙を引破って了った。それを傍の火鉢に放げ入れると、マッチを摺って火をつけた。赤く弱い焔がメラメラと立のぼったが、それが消えると黒くなって残った手紙の残骸は、火鉢のなかで脹れ上った、そしてその一部は灰となって軽く天井に舞い上った。