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さど

佐渡

太宰 治

「公論」1941(昭和16)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,270 字 · 23 页

青空文庫

自分に、腹が立って、たまらなかった。佐渡へ行ったって、悪い事ばかり起るに違いないと思った。しばらく眼をつぶって、自分を馬鹿、のろまと叱っていたが、やがて、むっくり起きてしまった。船酔いして吐きたくなったからでは無い。その反対である。一時間ほど凝っと身動きせず、謂わば死んだ振りをしていたのであるが、船酔いの気配は無かった。大丈夫だと思ったのである。そう思ったら、寝ているのが、ばかばかしくなって起きてしまった。立ち上ったら、よろめいた。船は、かなり動揺しているのである。壁に凭れ、柱に縋り、きざな千鳥足で船室から出て、船腹の甲板に立った。私は目をった。きょろきょろしたのである。佐渡は、もうすぐそこに見えている。全島紅葉して、岸の赤土の崖は、ざぶりざぶりと波に洗われている。もう、来てしまったのだ。それにしては少し早すぎる。まだ一時間しか経っていない。旅客もすべて落ちついて、まだ船室に寝そべっている。甲板にも、四十年配の男が、二、三人出ているが、一様にのんびり前方の島を眺め、煙草をふかしている。誰も興奮していない。興奮しているのは私だけである。島の岬に、燈台が立っている。