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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

不審に思って赤井さんの顔を眺めると、彼は不得要領にニヤニヤ笑っているばかりだ。

「今何を覗いていらっしゃったのです」

私は思切って尋ねて見た。すると彼は、

「何も覗いてなんかいやしませんよ。それはそうと、あなたは昨夜の足跡を調べに出ていらしったのでしょう。エ、違いますか」

とまぎらせてしまった。私が仕方なくそうだと答えると、

「じゃ、一緒に見に行きましょう。私も実はこれからそれを見に行こうと思っていた所なんですよ」

と誘いかける。だが、そういう彼の言葉も、嘘っぱちであったことが直き分った。塀の外へ出ると赤井さんの足跡が四本ついている。つまり二往復の跡だ。一往復は私の先廻りをして今朝見に行った足跡に相違ない。何が「これから」なものか、もうちゃんと見てしまっているのだ。

井戸の側へ着いて、暫くその辺を検べて見たが、別段昨夜と違った所もなかった。足跡は確に井戸から発し、井戸で終っている。外には、昨夜調べに来た私達三人の足跡と、もっと詳しく云えば、その辺を歩き廻った大きな野良犬の足跡とがある切りだ。

「この犬の足跡が、靴足袋の跡だったらなあ」

私はふとそんな独言を云った。