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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
私も最初から、この事件には何かしら気違いめいた匂がすると直覚していましたが、果して気違いでした。しかも黄金狂です。ピッタリと当てはまるじゃありませんか」
「で、盗難品は出て来たでしょうね」
どうした訳か、弘一君の言葉には分らぬ程ではあったが、妙に皮肉な調子がこもっていた。
「イヤ、それはまだです。一応は調べましたが、その男の部屋には無いのです。併し、気違いのことだから、どんな非常識な所へ隠しているか分りませんよ。なお充分調べさせる積りですが」
「それから、あの事件のあった夜、その気違いが部屋を抜け出したという点も確められたのでしょうね。家族のものは、それに気づかなんだのですか」
弘一君が根掘り葉掘り聞訊すので、波多野氏はいやな顔をした。
「家族のものは誰も知らなかった様子です。併し、気違いは裏の離座敷にいたのだから、窓から出て塀をのり越せば、誰にも知られず外に出ることが出来るのですよ」
「成程成程」と、弘一君は益々皮肉である。「ところで、例の足跡ですがね。井戸から発して井戸で終っているのを、何と御解釈になりました。これは非常に大切な事柄だと思うのですが」
「まるで、私が訊問されている様ですね」