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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

「このサックは本来爺やの持物です。だが爺やが若し犯人だったと仮定したら、彼は何もこれを花壇に埋る必要はない。そ知らぬ顔をして使用していればよい訳です。誰も現場にサックが落ちていたことは知らないのですからね。つまりサックを隠したのは、彼が犯人でない証拠ですよ。では、なぜ隠したか。訳があるのです。松村君はどうしてあれに気がつかなんだかなあ。毎日一緒に海へ這入っていた癖に」

と、弘一君が説明した所によると……

甲田伸太郎は近眼鏡をかけていたが、結城家へ来る時サックを用意しなかった。サックというものは常に必要はないが、海水浴などでは、あれがないとはずした眼鏡の置き場に困るものだ。それを見兼ねて常爺さんが自分の老眼鏡のサックを甲田君に貸し与えた。このことは(私は迂闊にも気づかなんだが)弘一君ばかりでなく、志摩子さんも結城家の書生などもよく知っていた。そこで、常さんは現場のサックを見ると、ハッとして、甲田君を庇う為めにそれを隠した次第である。

ではなぜ爺さんは甲田君にサックを貸したり、甲田君の罪を隠したりしたかというに、この常爺さんは、甲田君のお父さんに非常に世話になった男で、結城家に傭われたのも甲田君のお父さんの紹介であった。