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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

「松葉杖って、案外便利なものだね。ホラ見給え、こんなに走ることだって出来るから」

弘一君は浴衣の裾を飜して、変な格好で飛んで見せた。新しい松葉杖の先が地面につく度に、コトコトと淋しい音を立てる。

「危ないわ、危ないわ」

志摩子さんは、彼につき纏って走りながら、ハラハラして叫んだ。

「諸君、これから由井ヶ浜の余興を見に行こう」と弘一君が大はしゃぎで動議を出した。

「歩けますか」赤井さんが危ぶむ。

「大丈夫、一里だって。余興場は十丁もありゃしない」

新米の不具者は、歩き始めの子供みたいに、歩くことを享楽している。私達は冗談を投げ合いながら、月夜の田舎道を、涼しい浜風に袂を吹かせて歩いた。

道のなかば、話が途切れて、四人とも黙り込んで歩いていた時、何を思い出したのか、赤井さんがクツクツ笑い出した。非常に面白い事らしく、いつまでも笑いが止まらぬ。

「赤井さん、何をそんなに笑っていらっしゃいますのよ」志摩子さんが耐らなくなって尋ねた。

「いえね、つまらないことなんですよ」赤井さんはまだ笑い続けながら答える。「あのね、私は今人間の足って云うものについて、変なことを考えていたんですよ。