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よゆうのことなど
余裕のことなど
伊丹 万作
「新映画」1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,707 字 · 8 页
こうしてコチコチの息の詰まりそうな精神状態が一世に彌漫してしまうのである。
こういえばある人たちはおそらく眉を逆立てて、今はそんなのんきなことを言つている時期ではないというかもしれない。そして余裕のことなどを論ずるのはもつと別の機会においてこれをなすべし、現在はもはやその余裕の存在を許さないと叫ぶかもしれない。
しかし、私のいうところの余裕はあくまでも豊かな心からのみ生れる余裕のことであつて、客観的情勢によつて現われたり消えたりする安ものの余裕とは話が違うのである。死の瞬間において最も尊厳なる光芒を発揮するていのものである。
そもそも我々の父祖伝来の大和心というものは私が右に述べたような意味における余裕の精神に充ち満ちたものではなかつたか。「風流」といい「みやび」といい「物のあはれ」といい、いずれも余裕の精神のさまざまな現われにほかならぬが、我々の父祖はそれらを決して単なる観念として机上に遊ばせておいたのではなかつた。生活の中に、行動の中に、血液の中にそれらを溶かしこんでいたのだ。それだからこそ政事の中に、風流が出てきたり、合戦の最中にもののあわれが出てきたりしても少しもおかしくないのだ。